3年越しのHappy Birthday  ゾロ誕SS



ゾロとルフィが初めて出会ったのは、ゾロ17歳・ルフィ15歳の春だった。
高校の入学式で、壇上で挨拶する生徒会長のゾロに新1年生ルフィが一目惚れしたのだ。

それからのルフィの行動は早かった。
まず3年生の教室へ突撃してゾロのクラスを探し当てると、次はゾロを放課後の体育館裏に呼び出す事に成功した(何故『放課後の体育館裏』なのかというと、昔から定番の告白スポットだと兄のエースに聞いたからだ)
そしてその放課後、名前も知らない新1年生に呼び出された事に怪訝そうな顔をしながらも、律儀にゾロはやってきた。
「何の用だ?」と聞かれるや否やルフィは「俺、ルフィ。好きです。付き合ってください」と告白した。
出会ってたった2日目の出来事である。

ゾロは、ルフィの台詞を軽く数十秒反芻した後「ちょっと待て」と言った。
ルフィはニッカリ笑って「うん。いいよ」と言った。


「いや、待て」
「だから、いいよ」
「いや、そうじゃなくて……じゃあ、はっきり言う」
「うん?」
「俺は男だぞ?それでその台詞はおかしくないか?」
「なんで!?好きになったんだもんよー仕方ないじゃん」


あんまりサラリと返されたので、ゾロは一瞬自分が何か間違っているのかとたじろいだ。
ゾロの顔を見つめるルフィは真剣そのもので、とても冗談を言っているとは思えない。


「あ!もしかして彼女とか、いる?」
「いや、それはいない」


そう言ってから、ゾロは「しまった」と思った。
「いる」と答えたら、もしかしたら諦めてくれたかもしれないのに。
だが、そう思ったのも束の間で、その後のルフィの「まぁ、いてもいなくても関係ねぇけど!」の一言に本気で頭を抱えた。


「あのな……お前は俺を知ってるか知らんが、俺はお前を今日初めて知ったワケだ」
「うん。そうだな」
「で、そこへいきなり告白されてもだな……はい分かりました、と言えるか?」
「あ〜……無理かな」
「だから、ここはとにかく…―――」
「じゃあ、まずは付き合ってみて、それから、って事でどうだ?」


理論的な観点からお断りしようと思ったのに―――なにやら妥当(?)な提案をされ


「ひゃあ〜我ながら良い提案!じゃあ、今日からよろしく、ゾロ!」
「あ、いや……」
「うわ〜何か楽しいな!うひひひ」
「……おぉ」


その勢いに押され、ほぼ無理やりな感じでのお付き合いはスタートしたのだった。



その後はカラオケに行ったり、ご飯を食べに行ったり、ゲーセンに行ったり、ごく普通に遊んでいた。
2人きりじゃない事もしばしば(というか、大半)だったが、ルフィは誰ともすぐ仲良くなった。
付き合いだして分かった事は、ルフィはとにかく人好きのする人間だという事だった。
老若男女問わず今まで出会った中には、ルフィを嫌う人間が皆無なのだ。
それはその誰にでも懐く人懐っこさと、太陽のような笑顔の所為ではないか、とゾロは思った。
ゾロと数年来の腐れ縁・サンジに言わせると、「ルフィには、庇護欲を無意識に擽られる気がする」らしい。
「真っ赤な口を開けてピィピィ言ってるヒナに“餌をやらなきゃ”と思う親鳥の心理と同じだ」と言われて、ゾロも「なるほど」と納得した―――と同時に、女好きのサンジをそこまで懐柔したルフィを「末恐ろしい」と思った。

ともかく、ルフィが「良いヤツ」なのはよく分かった。
突拍子もないヤツだが一緒にいて疲れないし、会話も楽しいし飽きない。
そして、この関係は「普通の友達レベル」であり、特別問題視するようなルフィの言動もない。
最初は戸惑ったルフィの告白だが、こうしてみると大した問題ではなかったのかもしれない。
元々ノーマルだと言うし(思わず聞いた)、このまま「お友達」として付き合っていけば良いのではないか。
そう考えて、ゾロは少し肩の荷が下りた気がした。
たとえ相手が誰であろうと、好きになれないのに待たれても困るし、やはり申し訳ないのだ。
未だに好きな女の1人もいないが、かと言って「男と好き好んで付き合わなくても」という気持ちが当たり前にある限り、ルフィをそんな目では見られないワケだし。

ゾロがそんな風に自己完結し、清々しい気持ちに胸を撫で下ろしていたのも、やはり束の間だった。


それは、巡り巡ってきたゾロの誕生日。
ケーキ片手に家へやってきたルフィが、ゾロの部屋へ通されてからの出来事だった。


「なぁ、ゾロ……俺の事、ちょっとは好きになってくれたか?」
「あ?……あぁ、まぁそうだな」


ニッコリと、いつもの調子でルフィはゾロに聞いたのだ。
それは、「トマト食べられるようになった?」とでも聞くような気軽さだった。
なのでゾロも、特別警戒する事なく、サラリと返した―――つもりだった。


「ほんとか、ゾロ!良かった〜……プレゼント受け取ってもらえなかったらどうしよう、って思ってたんだ」
「は?プレゼント……?」


何の事かと目を円くするゾロを尻目に、ルフィはポケットから真っ赤にリボンを取り出すと、おもむろに頭につけた。
それから、ニッコリといつも以上の愛らしさで微笑むと、いつになく照れ臭そうな顔をして小さく囁いた。


「プレゼント……俺」
「はぁ!?」
「ゾロがちょっとでも俺の事を好きになってくれてたらあげよう、って覚悟してきた!」


相手が女の子なら、「なんてベタな展開なんだ」と鼻で笑って小バカにしたかもしれないが、相手が男の場合シャレにもならない。
確かにゾロを好きだと言った相手ではあるが、ゾロにとっては(自分で勝手に)友達認定した男だ。
そんな気持ちもないのに抱けるか(いや、それ以前に男だし)

ぐるぐるしてきたゾロに追い討ちをかけるように、ルフィはちゅうっと音がする勢いでゾロにキスをした。
ゾロはどうだか知らないが、ルフィにとっては初めてのちゅうである。


「ちょっと待て!とにかく待て!」
「むー……ゾロは待たせてばっかだな」
「良いか、お前……自分を大切にしろ。大体意味分かって言ってんのか?」
「意味、は……半分以上分からん……けど、サンジが“後はゾロが良いようにしてくれる”って言ったぞ」
「アイツか……こんなつまらん入れ知恵しやがって」


ルフィが意味を理解していない事を良い事に、ゾロはとりあえずその提案を却下する事に成功した。
不覚にも唇を奪われてしまったが、それはそれ。
とてもじゃないが冗談にも「男を抱く」なんて考えられない、ありえない。
だがここで、「来年の誕生日までには理解出来るようになるから、来年にはもらってくれ」というルフィの一方的な提案に首を振れなかったのは、ゾロの不徳の致すところである。



そして、その後も付き合いは続いた。
ゾロは高校を卒業し、大学に通うようになって少しばかり会う時間は限られるようにはなったけれど、ルフィはめげずにゾロの部屋に遊びに来るようになっていた。
カラオケに行ったり、ご飯を食べに行ったり、ゲーセンに行ったり、それは当初と変わらなかった。
だが、一度目のゲリラ的なキスの後から、ルフィはたびたびゾロにキスを強請った。
言い出すと聞かないので、最初は仕方なしにしていたのだが、それも日を追う毎に変化が見えた。

嫌ではないのだ―――ルフィとのキスが。

最初は軽く触れ合わせる程度だったソレが、だんだんと熱の篭ったものに変化していったのは2年目の夏頃の事だった。
会えば当たり前のようにキスをする―――ほぼ習慣に近いソレ。

初めは軽く触れて、すぐ離れて。
すると、焦れて「もっと」とせがむように、ルフィが唇をツンと尖らせる。
それを宥めるように舌で擽れば、ルフィは熱い吐息を漏らしながら薄く唇を開く。
そこへ、まるで誘われるように舌を忍ばせば、待ち構えたように絡み付くルフィの熱い舌。

時折漏れる吐息も、ぼんやりと焦点の定まらない大きな黒い瞳も、縋るようにシャツを掴む手も全て、ゾロの思考を麻痺させてしまう。
ルフィの反応を見れば、本気でゾロを好きでいるのだと嫌でも知らされる。
ならばいっそ、溺れてしまっても良いのではないか―――そんな甘い考えが頭を過ぎる。
正直なところ「男(ルフィ)を抱く」という事に、さほどの抵抗を感じなくなっているのは事実だ。
だが、「本当に自分はルフィが好きなのか」といえば、ゾロにはまだそうとは断言出来ない状態でしかない。
せいぜい「キスするのは嫌じゃない」程度なのだ。


なのに、その年のゾロの誕生日にも、やはりルフィは言ったのだ。


「誕生日おめでとうー!俺がプレゼントな!」
「ルフィ……」
「今年はもらってくれるか?」


ゾロは頷けなかった。
確かに1年目よりもずっとルフィを好きになっていたけれど、それは友達としての範疇を超えない。
やっている事といえば、まるっきり範疇外の行いに違いないけれど、だからと言って、ルフィに対してそれ以上の事を望む気持ちはなく、ましてや恋愛感情なんてありはしないのだ。


「もうちょっと待ってくれ」
「うん……そっか。俺は待つよ。ずっと待つ」
「…………」
「なぁ……でも、キスは良いんだろ?」


縋るような目を向けられて、そっと唇を近づける。
友達だと言いながら、こんな自分はズルイ、と思うのに、ゾロはルフィの唇を貪る事を止められなかった。




そして、その後も付き合いは続いていた。
相変わらずカラオケに行ったり、ご飯を食べに行ったり、ゲーセンに行ったり、それはずっと変わらなかった。
変わった事といえば、ゾロがルフィに触れる事に抵抗がなくなった事だ。

会えば当たり前にキスをして―――それから、ゾロはルフィの身体に触れる。
それはまだ一方的な行為に過ぎないが、何がキッカケだったのか今となっては分からない。
逆を言えば、無意識に行為がエスカレートしていったという事だ。


こんなの、とっくに友達の域から遠く外れてしまっているのに―――それでもゾロは、自分の気持ちに決着がつけられなかった。
ただひとつ、「自分には触れさせない」という事だけが、最後の砦となっているに過ぎないのに。



そして、3年目の誕生日―――やはりルフィはあの台詞を口にした。


「ゾロ……今年はもらってくれる?」


そしてゾロは、やはり返事が出来なかった。
自分の気持ちの本当の場所は、一体どこにあるのか。
自分はルフィをどうしたいのか。
このままルフィを待たせる事に、意味はあるのか。
自分自身に問いかけてみても答えが出るワケもなく、分からないままだ。
もう「待ってくれ」なんて台詞では誤魔化せない。


「やっぱダメか……?ゾロは俺ん事好きになれねぇ?」
「…………」
「だよなー…ちゅうはしてくれるけど、ぎゅってしてくれた事ないもんな」


そう言ってルフィは、普段のゾロを思い出したように小さく笑う。
仕方ないなぁ、とでも言いたげに、少し呆れたような顔をして。
ルフィはいつも、好きだと言わないゾロに、「でも、俺はゾロん事好きだもん」と言って笑った。

だが、今日は今までとは違った。

ルフィはそっとため息をつくと、おもむろに視線を上げた。
穏やかに笑っているのに―――ゾロには、それがまるで泣いているような表情に見えた。


「ゾロはすぐ“待て”っていうけど……俺、もう待てねぇ……」


搾り出すように告げられた言葉は、初めて聞いたルフィの拒絶の言葉だった。
ルフィの大きな黒い目の端に一気に溜まった涙の雫は、堰を切ったように溢れ出し滑らかな頬を滑り、止まる事なく流れ落ちる。

こんな泣き顔なんて見た事なかった。
ルフィはいつも笑っていたから。


「いつかきっと好きになってもらえると思って、ずっとずっと待ってたけど」
「ルフィ……」
「俺、もう待てねぇよ……」


いつだってルフィは、真っ直ぐな目でゾロを「好き」だと言っていたのに。
ゾロは、それに真っ直ぐ向き合う事もせずに、ただ流れのままに過ごしていただけで。

ルフィが傍にいる事が、その心地良さが、まるで当たり前のように思っていたから―――気付かなかったのだ……自分の気持ちの変化に。


「これで最後にするから」


そう言って、ルフィはゾロの唇に触れた。
まるで初めて交わすキスのように、恐々と触れ何度も啄ばんで、離れ際に名残惜しげに下唇を噛んで。
これで最後なのだと、自分に言い聞かせるように。


「ありがと……俺、この3年楽しかった……ゾロには迷惑だったかもしんないけど……俺は、」
「ちょっと、待ってくれ……」
「え……?」


不意に腕を引っ張られ、倒れ込んだゾロの胸の中。
目を開ければ、間近に顔を覗き込むゾロの目とかち合った。


「ゾロ……?」


ルフィの唇が離れた瞬間、体温を全部奪われたのかと思った。
そして胸を過ぎったのは深い絶望―――凍りついたように胸がシクシクと痛む。
ルフィをこのまま離すワケにはいかないと、ここにいてほしいのだと、そう言いたいのに、 凍えそうな唇はもう満足に言葉を紡げそうになかった。
ただ腕の中の温もりを、逃げられないようにぎゅっと力一杯抱きしめるのが精一杯で。


「ゾロ……?」
「頼む……待ってくれ」


ルフィはもう「待てない」と言っているのに、こんな台詞しか出てこない自分がもどかしい。
それでも離すワケにはいかないのだ。
離したくないのだから。


「今からでも間に合うか?」
「何……が?」
「今年は、プレゼントが……ほしい」
「ゾロ……」
「今年だけじゃない……これから先も、ずっとだ」


自分でも随分酷い事を言っているとは思った。
散々待たせた挙句、愛想を尽かされそうになって初めて自分の気持ちに気が付いて、今度は「離さない」と言ってるのだから。
自分勝手にもほどがある。
だけど、こんな事、誰にだって言える事じゃない。


「俺は、ルフィがほしい」
「うん……」
「ルフィが、好きだ」
「ゾロぉ……」


ポロポロと零れ続ける涙は、ルフィの3年分の涙なのだろう。
次々と溢れる想いを、ゾロは舌で掬い取って、目尻に頬に口付ける。


「こんなに好きなのに、なんで気付かなかったんだろな……俺は」
「俺は、すぐ気付いたのに、な……」


恨めしげに見上げられた目はやがてそっと閉じられ、ふわりと重なり合った唇は、今までとは比べ物にならないほどの甘さで、ゾロの思考を溶かしていく。
触れるほどに愛しさは募り、もっと触れたいと想いは激しさを増す。

後はもう、止める理由なんてないから。




「誕生日おめでとう、ゾロ……」



そう言ってルフィは、シーツの上で幸せそうに笑った。




 〜 Happy Birthday ZORO 〜


おかしい・・・何故かこっち方向になりました(もっとギャグ路線を狙ったのに)

あんまりゾロを祝ってる感じじゃないですし、恥ずかしい内容なので(私的に)DLFとは公言しない方向で;
もしも「貰ってくぜ!」と仰る豪気な方がいらっしゃいましたら、一言いただけますとアレします(ドレだ)

2007.11.9up


 *あああ、相変わらず、どんと体当たりなルフィが可愛いお話で。
  でも、屈託のないお顔の陰で、実は毎年ドキドキしてたのね。
  罪作りなゾロといい、いつもこ〜んなかわいらしいお話を、
  kinakoさま、どうもありがとうございますですvv
 

kinako様のサイト『heart to heart』さんはこちら→**

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv お気軽にvv

ご感想はこちらへvv**


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